金木: ありがとうございます。 今まで御社が築かれてきた、お持ちのノウハウを溜め込んでいきたいと。 そして、これを連続的にやるべきだと。コロナショックの中でもそれを止めないことが未来のゑり善様のお客様接点の改革に繋がる と信じてらっしゃるということですね。
亀井様: はい。 特に、今後はお客様からの様々なご相談が益々増える と思います。 着物に特化したお店が非常に少なくなってきている中で、着物に関しては何でもご相談くださいと。あらゆることに対応できますというお店でないと、なかなか生き残っていけない と思います。 そういう意味では情報を溜め込んで、お客様により喜んで頂けるような、ご提案ができる土台作りはギアを上げて進めていかないと と感じております。
金木: お客様との関係性や、接点の質の高さは、御社が凄くこだわりを持たれているところだと思います。 一方、今後もテクノロジーが進んでいく中で、お客様に画一的な情報を広くタイムリーにお渡しして、リアクションを頂く営業の形なども進んでいます。ITの世界ではインバウンドと呼びますが、見込み顧客を作って広く浅くという事業の展開も、今後のあり方としてはあり得ると思います。 それでも、質の高い対面での顧客接点にこだわり続けている理由、想いとは 何なのでしょう。
亀井様:広く浅くも1つのスタイルですけれど、私どものスタンスは「長く、深く」がベースにある と思っております。 50年以上、5世代にわたって、担当としてお付き合いさせて頂いているお客様もおられると、ベテランの販売員が言っております。5世代ですから、非常に長いお付き合いといえます。 その中で、「美意識」というものを、日常に溶け込ませるということは、無理やりではできないと思っています。お客様のタイミングやライフスタイルの中に、そっと置いてあげるような存在がいないと 、着物というものはどんどん廃れていくんじゃないかなと思っております。 単純に大勢の方に広げるというよりは、お一人、お一人に寄り添って、的確なタイミングで着物の魅力を伝えていくということが、文化を守る上では一番重要な役割 と思っております。 今後、流通が変わると言われており、メーカーさんが直にお客様に販売をするという流れも出てきています。では着物はどうかというと、ただ単に商品を買うだけではない、サービスが必要だと考えています。 私たちは、手間も勿論コストもかかりますけれども、そこのお手伝いをすべき だと感じております。
金木:小売店様の役割としては、そこを担うことが、すごく大事 だということですね。
亀井様: この役割と採算のバランスを考えることが非常に難しい時代 になってきているのは間違いないです。 その中で、やはりシステムをいかにうまく活用していけるか、限られた時間で、いかに情報を有意義に使えるか というところを考えていきたいなと思っています。
金木: 世界はこのコロナをきっかけに大きく変わると思います。 多分、コロナがきっかけの一つになっただけなのですが、テクノロジーの成長に伴って人が効率的になっていくことに対して、本当の豊かさとは何かということを世界中の人が考えだしている のかなと思っています。 そういった意味でこのコロナは大きなきっかけで、本質的な生き方、本質的な価値の見直しが一気に、この短期間で進んだ なと思うんです。 そんな中、御社の事業というのは、本質的な価値にフォーカスをあてていらっしゃるものだと思います。 少し前の時代には難しかったかもしれないけども、これから、本質的な価値を見出すという、新しい価値の見直しのもとに御社のフィロソフィーはフィットする んじゃないかなと、率直に感じました。
亀井様: 昔から変わらないというのは、良いも悪いもあると思うんですが、非常に高度な技術と美的センスというのは時代が変わっても、大きくは変わらない本質的な魅力 だと思います。 その魅力をお客様に伝えるために、私たちは、どういうことができるのか というのは常に考えております。 また、単に人と人が会うというそれだけで、凄く価値を感じるような、この3か月になりましたので、そういった意味では対面の喜びというか、一気に考え方が変わってきてるんじゃないかと私も実感しますね。
金木: そうですね。人と人が会うことの価値は確かに上がりました。 でも、実際、お客様に体験をして頂く部分については、テクノロジーの有効活用で、体験のバリエーションが増えるということも事実ですよね。
亀井様: はい、間違いなくそこはあると思います。
金木:人と人との出会いのようなところが価値創造の中心だとしたら、それを補うお客様へのアプローチとしての、テクノロジーの力 は大きいですね。
亀井様:どう使いこなしていけるか ですね。 着物を装う上で必要となるのであれば、オフライン中心ではありますけれども、精力的に取り組んでいきたい なと思います。
金木: 僕たちも、たくさんのお客様にお会いするのですが、IT 化やシステム化に対して、ほぼ迷いなく、本質的な理由もなく導入する企業様も結構いらっしゃいます。 「システム化しなきゃダメでしょう」や、「今の時代スマホを営業に持たせなきゃダメでしょう」など…その点専務とお話していると、本質的にどういうことをするための道具であるかいうことを考え続けてこられた のだと思いました。ITはあくまでも、それを実現させるためのツール とシンプルにお考えができているなと思います。素晴らしいと思います。
亀井様: とんでもないことでございます。
金木:コロナショックというのは御社にとっても本質的にお客様との接点を考え直すきっかけになった のかなと思っています。 その中で、UPWARDを選択頂きましたが、専務が次のゑり善さまを引っ張っていくにあたり、魂の叫びのような「こうしていくんだ!」というビジョン について、お話し頂けますか?
亀井様: 世界中どこを探しても、これだけ高度な染織技術というのは無いので、この技術と文化を残せれば、注目を集めると思っています。時代の流れも、ものをたくさん作って大量消費していくという時代ではなくて、いわゆるサスティナビリティーの時代。 持続可能性というところを世界が今、注目するようになってきている中で、着物は非常によく考えられている。地球にとっても、やさしいアイテムなので、その魅力は今後も伝えていきたい なと思っています。 とはいえ、着物は日常から遠く離れた存在になりつつあります。特に買取などですけれども、着物の魅力・価値が、何千円のものだという認識になってしまっている部分もあるので、そうじゃないですよと。 本当の着物の価値はこういうことにあるんですよという発信をしていく、お客様との接点を持ちつつ、ちゃんと着物の価値を担保できる、そんなお店でありたい と非常に強く感じております。
亀井様:最後の一軒になってでも…着物の魅力は日本に、世界に伝えていきたい というのが、ビジョンです。
金木: その戦略、戦術としては、いわゆるクラウドツール、例えば、我々のアプリケーションUPWARDをうまく使いこなして実現させていく ということですね。
亀井様: おっしゃる通りです。使い勝手の良いツールがどんどん出てきていますので、一早く選定して、どう活かしていくかを実現していきたい と感じております。
金木: ありがとうございます。弊社もアプリケーションを提供するということだけではなく、お客様に使って頂き、成長して頂くためのアプローチが今後、サービスサプライヤーとして大事 だと思っています。 結局、お客様の成長が僕らの成長に繋がる という考え方です。 お客様の接点改革を通して、御社の事業に、僕らが微力でも貢献させて頂きたいと思っています。引き続きよろしくお願いします。
亀井様: ありがとうございます。ぜひとも知恵をお借りできればと思います。
金木: 今回のインタビューは日本の伝統を守ってビジネスをやられている方たちも本当に勇気づけられると思います。亀井専務、ありがとうございました。
対談者プロフィール 株式会社ゑり善専務取締役亀井彬 京都出身。1987年(昭和62年)生まれ。33歳。私立同志社大学商学部商学科 卒業。ゼミではフィールドワークを中心に、創業100年を超える京都のファミリービジネスの事業継承について研究。大学卒業後 東京のIT企業にて勤務。業種に特化したパッケージシステムの開発やシステム提案に従事する。結婚を機に家族のルーツを深く知る中で、現在の呉服業界の危機的状況をなんとかしたいと思い、転職を決意。現在、お客様との着物談義を繰り返しながら、日本文化の奥深い魅力を再認識する毎日。趣味は日本各地を廻り、その土地の風土と伝統品に触れること。
UPWARD株式会社代表取締役社長CEO金木竜介 1973年東京都生まれ。LBS(位置情報サービス:location-based service)やGIS(地理情報システム:Geographic Information System)に精通し、これまでに200以上の関連システムを構築。国内初となるSalesforceと地図や位置情報を高度に連携させた、次世代型営業支援SaaS「UPWARD(アップワード)」を創業。現在、大手企業を中心に300社以上に導入されており、フィールドセールス向けのクラウドサービスとしては国内トップシェアを誇る。