「模索し続けること」、「仮説を立て、チャレンジすること」 (UPWARD)UPWARDでは、営業マンだけが保有しているアクティビティデータに着目しています。ファーストラインワーカーの生産性向上が求められる中で、どのようなデータが可視化されることに意味があると考えていますか?
吉田様: この問いは、「何か価値がある」という前提になっている と思います。「何かが可視化されれば、何か価値があるはずだ」って、これってつまり仮説ですね。で、ここがポイントで、「『何をすれば、どんな結果が得られるか?』って、本当に最初から全部分かっていますか?」っていう、問いにしたいな 、と。 これからの世界において、最初からデータに当たりをつけていって、結果が出なかった、ということは当たり前になると思うんです 。それは、失敗じゃないんです。そうか、これは価値につながるというものの、キーファクターじゃなかったんだな、という経験が得られる 、といいますか。 ですから、テーマを絞らないで、今日から得られるデータもあれば、ちょっとね、仕組みとかを作らなきゃいけないといった難易度だったりとか、頻度だったりとか、粒度だったりとか、データって色んなものがあると思いますので、まずは色々あるデータを集められる環境を作ることがスタートだと思う んですね。 そうすることによって、サイズ、種類、粒度が違うデータが集まってくると、初めて知見って得られる 。データがたまらないと知見って得られないので、それを、何でもかんでもまず集めるというのがまず一つ重要かな 、と。 更にその集まってきたものから知見を得るために、可視化というフェーズに入っていきます。いかにここをフランクに始めて、成長させるものにできるかっていうのが、まず大きなポイントになるかな、と。そうすると、自然とデータを扱うということの価値やメリットを、みんなが経験的に学べる と思うんですね。「この活動って意味あるよね」という意識が芽生えてくると、自分のメリットが分かってくることになります 。メリットが分かってきたら、前に進みましょう、という気持ちが生まれてくるので、デジタル化だけではなく、そこから価値を生み出しましょう、というDXの世界観に、納得できるようになる と思うんですね。
(DXの全体像:平成30年版 総務省情報白書より引用) なので、そういったステップを踏んでやっていくことというのが、一つ大きなポイントかな、と。顧客接点でしか得られない貴重なワークログというものが、いろんなものがまずある。そしてそれを、出来る限りいっぱい集める。それを、みんなが見えるようにする。その結果、インサイトを集めて、改善していく。 改善することはね、日本人大好きですから、あとはもう、背中をポンと押してあげるだけだと思いますので。まずはそういった環境を整えてあげるというのが、一つ大きなポイントになってくる のかな、取り組みの意識として持つべきことなのかな、と思いますね。
金木: そうですね。 我々がもしプラットフォーマーとしてサービスを提供している側だとしたら、やっぱり色々なデータを取って、その中で何が使えるかというのをFit&Gapしていく、というのが、今まさに大事で、それがDXの価値になると思うんですが、我々のようなSaaSプロバイダーの立場としては、取得できるデータの一部を活用することによって、「ここがDXで価値を生み出すところじゃないか」という仮説&検証しているようなビジネス になります。 これまでずっとセールス、CRM、SFAと携わってきた中で、特にデジタル化しやすい領域においての一つの気付きというのは、デジタル化しやすい情報というのは、真実にたどり着けないというか、示唆を与えない 、ということです。 真実に近いところは何か、というところだと、我々の事業コンセプトでもあるんですけども、フィジカルに近いところだと思うんです 。いわゆるデジタル化しにくいところをデジタル化する試み、というのが1つのソリューションではないか と思っていて、デジタル化されにくい、フィジカル領域での定性的、感覚的な「人によって情報化していく部分」をCRMと紐づけてデジタル化 していく。そこが僕らのビジネスで言うと、フィールドワーカーという世界かな 、と。
フィールドワーカーから入ってくるものは、その営業マンが、いつ、だれに、どういう目的でその人に会って、会ったときにどういう反応だったか、結果はどうだったか、みたいなデータ です。それを統計的に見ていくと、何回目の訪問で、そういう反応になったの、結果になったの、みたいなトレンドもあるだろうし、ROIという世界でいうと、ERPとCRMをつないで、営業の人たちがラストワンマイルをやることで、営業の人たちにどれくらいお金がかかって、それが売り上げという形でどれくらい回収できたかという可視化と、その再現性を確保できる 。 自分たちの資産と、営業マンを通したサービスという部分が、どれだけ確度を高め、再現性のある形で、また来月、来年、10年後とやっていけるのか、というプラットフォームを、僕らは実現したい と思っています。 なんとなく、僕らの課題認識と、やっていきたいことって、伝わりますでしょうか。
吉田様: はい。それぞれの分野に特化して強い仕組みとか、ノウハウをお持ちになられているものを活用していく っていうのは、もちろんすごく、利用される方々にとっても、ポイントになると思います。 ただ一つ言えるのは、その仕組みだけで、全部が賄えることはないと思うんですよ。そこから出てきたものを、Microsoftのような会社が、大動脈として色々なところにつながるパスというか、技術だったり、プラットフォームのようなものを提供する、と 。 さらにパートナーの皆さまに、それぞれの強みの分野で生かしたデータを更にそこで集める、使う、というものを用意していただけることによって、私たちがつないでいって、色々な会社のものを取り入れる、ということにつながると思っています。 そういう感覚で社内のシステムやサービスをうまく駆使していく、という風に考えていただけると、私たちが実現したい、今実現しつつあるパートナーシップという価値を、より多くのお客様に感じていただけるんじゃないかなと思います ね。
MicrosoftとSaaSベンチャーUPWARDをつなぐ、パートナーエコシステム 金木: まさに今吉田さんに仰っていただいたところで、僕らもここの課題解決だけを集中してやるために、次のアプリケーションとして、AGENTという日々の顧客訪問を中心とした顧客接点データが自動でCRMと紐づけて記録していくことができるサービスを7月にリリースする予定 なんですが、できるだけ早期にPaaS部分をAzureにしたい と考えています。
(現在のUPWARD運用の図。Force.comとAWSを利用して運用している) Azureでこのアプリケーションを実装するということの先には、現在データベースとしては僕らのデータハンドリングができない状況なので、これを、僕らの運営するプラットフォームに移行したい、という構想があります。
現在、エンタープライズアプリケーション(大手企業向けのアプリケーション)の世界では、様々なクラウドツールが利用されています。その中で僕らの提供できる機能として、フィールドセールスの顧客接点情報をデータエントリーして、システムを回して、最適なネクストアクションを提供できるような、インサイトを返したい と。それが我々が提供していくソリューションの本質なので、UPWARD独自のプラットフォーム構想として、多くのエンタープライズで活用されているAzureというプラットフォームで、自分独自でデータをマネジメントする、ということをやっていきたいな 、と。 その中でUPWARDで取得したデータが、Azureを通して、色々なアプリケーション、色々なユーザーに示唆を与えていくという形にしていく ための選択肢として、このプラットフォームを選んだ、という背景があります。
吉田様: これは、私たちからするとすごくありがたいです。UPWARDさんが提供しようと思われている価値のところに、私たちの技術を使っていただける、という話だと思います。 これは、UPWARDさんのプラットフォームをお使いになられる方を、間接的にMicrosoftが支援するということだと思っています 。 私たちが一番先頭で頑張る、ということももちろんありますが、それ以上に、私たちのプラットフォームを使っていただいて、皆様方のノウハウを使って更に先に届けていくというために、私たちは色々なパーツをご用意して、更にオープンに使っていただける 、というのが、会社としてすごく重要になってくると考えています。 Microsoftはこの10年の間で、オープン性を非常に重視する姿勢に変わってきていますので、ぜひ、こうしたパーツを使って、他の人とのビジネスであったりとか、自分たちのビジネスを強化するというところに、色々使っていただきたいな、と。そして結果として、そのビジネスがまたオープン性を持って、色々なパートナーさんとのパートナーエコシステムの形成にもつながるという側面も生まれる と思うんですね。 なので、そういった観点でも、私たちの取り組みというものをこうやって評価していただけるのは、すごくありがたいなと感じます。
対談者プロフィール 日本マイクロソフト株式会社クロスインテリジェンスセンター長 吉田雄哉 SIer、企業内の情報システム部門、SaaSスタートアップの創業を経て、2015年1月日本マイクロソフトへ入社。約9年にわたり、クラウドコンピューティングの活用に関する企業へのアドバイス活動に従事しており、前職にて「パブリッククラウドえばんじぇりすと」と名乗っていたため、略して「パクえ」と呼ばれることとなる。現在はクロスインテリジェンスセンター センター長として、日本企業でのDX推進に関する支援活動に力を入れている。
UPWARD株式会社代表取締役社長CEO金木竜介 1973年東京都生まれ。LBS(位置情報サービス:location-based service)やGIS(地理情報システム:Geographic Information System)に精通し、これまでに200以上の関連システムを構築。国内初となるSalesforceと地図や位置情報を高度に連携させた、次世代型営業支援SaaS「UPWARD(アップワード)」を創業。現在、大手企業を中心に300社以上に導入されており、フィールドセールス向けのクラウドサービスとしては国内トップシェアを誇る。
続編はこちら: 「Vol.3:アフターコロナの世界を、企業はいかに生き残るか」 「【総集編】DXにおけるコロナショックとその後の世界」対談動画