Microsoftにおける変革の経緯、成功の秘訣 UPWARD代表取締役CEO金木 以下、金木: ここ数年のMicrosoftの変化というのは、過去に類を見ない というか、ソフトウェアベンダーがこんなに変わるんだ、と思うくらいすごいなと驚いています。 色々な要因があると思うんですが、時代のトレンドやニーズを非常にうまく捉えているのかな、という印象です。プラットフォーマーとして、その上で動作するアプリケーションの価値を最大化するための設計思想 などがそれにあたると思います。 とにかく本当にここ3,4年ですかね、オープンソースのコミュニティ というか、ディベロッパーの人たちが支持するプラットフォーマー に変わりましたね。
日本マイクロソフト株式会社クロスインテリジェンスセンター長吉田雄哉様 以下、吉田様: 私も2015年入社なので、現CEOサティア・ナデラに変わってから入った人なんですけども、過去のMicrosoftについてはあまりよく思ってなかった んです。 ただ、時流に合わせて色々なことを変えていくこともそうですし、社内のマインドセット、マネジメントメンバーの考え方や手法が、私の入社ちょっと前くらいから劇的に変わっている んですね。 視点がライセンスビジネスよりも、いかに使っていただけている方々に、いかに僕らがコミットしていけるか、参画していけるのか、というところをすごく重視するようになって、 単純にサービスを使ってください、ではなくて、このサービスを使って儲けてください、 ということで、生産性向上へ向けた活動をお客様が前向きにできるように、このサービスをどう使っていただくと良いのか、ということを、社員は知恵を絞れ 、というように、社内でもよく言われますし、人事評価の面でも、そういう側面が非常に今多くなってきていまして、正直者が馬鹿を見なくなってきている んですよね。 ちゃんとお客様のことを考えて、しっかりやったらちゃんと褒められる、というのは、社員としてやっぱりうれしいですよね。 前向きに社員が取り組める環境になったというのは、社員としてはうれしいですし、そういうところが、ちょっとずつ、みなさまの中でのMicrosoftの印象として変わっていくことに繋がっているといいな、とは思いますね 。
金木: Microsoftの社員の方々は、様々なメディアで発信しているビジョンやサービスの方向性などを同じトーンで話されていますし、とにかく働くのが楽しそうな人が多いなと思います。 ワークスタイルの変化を社員がみんな理解して働いている、 というのが、本当にすごいですよね。クリエイティブだったり、ポジティブだったり、社員の人たちも、変化を歓迎して、自らその変化に加わっている というか、そのループがすごく良い状態で回っているように思います。
吉田様: 結構、長くやっているんですよね。日本マイクロソフトの社員の生産性を高めよう、という活動はもう10年以上やっていて、散々失敗していて、社員も嫌な思いをしてるんですけど、取り組みをやめてないんですよね。 そのうちにちょっとずつみんなが学び、その中で「こういう風にすると良い」ということを、みんなが体験的に学んできている。 僕らがスーパーマンだったりとか、ものすごく良いソリューションを持っているわけではなくて、僕らもすごく実直に、いっぱい色々なこと考えながら、いっぱい失敗して、いっぱい色んな所を学びながら、今のスタイルに落ち着いている というところもあります。泣いているところを見せると格好悪いから、みんな笑うようにしてるけど、本当はいっぱい泣いているぞ、と(笑)。
金木:歴史もあるし、色々な失敗もしてきた、というところで、地に足がついている中で、本当の意味での目指す方向性みたいなものが統一されてきた感じなんですかね。 今までやってきたことを、まだ愚直にやっている人たちもいて、でも、新しい世界の取り組みっていうのももちろん、先進的にやられている人たちもいて。良いバランスというか、ハイブリッドな感じですね。 良いとこばっかり見てるつもりはないですけど、こんなに変わった会社ってあんまり見たことないな、と思います。
「フィードバックループを回せるか」が、企業の生き残りのカギ
吉田様: 私、前職で仲間と一緒にSaaSベンチャーを作ったことがあるんです。ケンカ別れしたわけではなく、僕だけちょっと抜けてMicrosoftに入ったという経歴があるんですけど、組織が小さいうちって、意思の疎通ってとりやすいじゃないですか。 CEOの人が考えていることをすぐ横で聞いていますから、何考えているか分かるっていうところがあると思うんです。でもこれが50人になり、200人、1000人、1万人となっていくと、どんどんマインドがある人との距離が遠のいていってしまう と思うんですよ。そうすると「何のためにこの会社があるのか」「何したいのか」とか、衝動みたいなものってちょっとずつみんな分からなくなっていくと思うんです。
でもMicrosoftって、トップやリーダーが何を考えているかっていうのを、伝える機会が多いんです。 それをトップダウンで「俺の話を聞け」ではなくて、きちんと社員にどういうメッセージを伝えるべきなのかっていうのが統制されていて、更に社員に対して「メッセージに対してどう思いましたか」「それを行動に移せていますか」というような、調査が結構多いんです。社員から「こうするといいのに」というのを、率直に返すと、それをちゃんと聞いてもらえる。またそのあと方針が修正されて、自分たちにそれが返ってきて、それに対して納得して行動するみたいなサイクルが、うまく回っているんです。 この規模なのに、よくこのシステムを作ったなと思います。 こういうのって成長していく過程でおろそかにしたりされることもあると思うんですけど、ちゃんと文化的に根付いていて、この文化を支える仕組みが今Microsoftの中にグローバルにあるということが、「なぜ変革ができたのか」というところの一つの解なのかな、と思いますね。
金木:フィードバックループですよね、すべて。 営業現場も、プラットフォームも、アプリケーションも。とにかくフィードバックのループを高速に回す。 時代とか、人の変化がすごく激しいから、そのループを高速で回して、改善していくということが、関係性の構築や改善、そもそものサービスの改善につながる。 UPWARDも今、セールスフォースが提唱してきたセールスメソッドを参考にしたものから、我々の体験知に基づいたABM(アカウントベースドマーケティング)を中心とした新しいメソッドに移行中 です。
要するに、過去の商談実績や定義しているサービスペルソナに合致すると思われる顧客をバイネームでリストアップし、その企業に対してコンテンツを専用に磨き込んで当てていく 。お客様の事例をブラッシュアップして、サクセス事例として、似たようなお客様に充てていく、とか。 どちらかというと、お客様とがっちり付き合っていくという感じですが、それも含めて、高速なフィードバックループだと思うので、こういうのが時代に求められていることなのかな と思いました。
吉田様: ビジネスモデルって、色んな背景の中で変わっていくと思うんですね。 時流があったりとか、そもそも考え方なので、すごくしっくりくるのものもあれば、あとから振り返れば「なんであんなことやってたのかな」というのも、色々あると思う んです。 何が正解か分からない中で、模索していける 。何かに対して懐疑的に思う理由にはデータやエビデンスがあって、「こうすると良いんじゃないか」ということに対して取り組みました、それに対してどうなんですか、というフィードバック。 やってみなきゃ分からないし、やたらめったら何でもやるっていうのも、ちょっと違うじゃないですか。そこを、ある程度賢くやっていく、という風になっていくと、仕組みも重要なんですけど、そこで得られたものを、ちゃんとデータとして自分たちが認識できるってすごく重要だと思うんですね 。「やってみました」と、「結果はこれです!」と、その間にあるはずだったものが抜けていると、再現性がなくなっちゃうじゃないですか。 従来であれば、そういったものをサポートできる基盤っていうのは準備しづらかったと思うんですね。所有しなければいけなかったり、時間がかかる、お金がかかる、試せない、といったように。そこに、クラウドサービスが台頭してくれたおかげで、様々な手法が使えるようになったので、意識的に自分たちで何をしたいのか、という意思を持って、そういったものを色々試していくことができます 。 頭でというよりは、経験的に理解していくことができれば、もっといろいろなことできるのかな 、と思うんですよね。それは、「模索する」という動きです 。そうすることによって、自分たちにも「なぜそうなったのか」というものが返ってくると思うんですよね。 私たちみんなで提供しているサービスというものを、「何でそれがそうなったのか」と、そういう観点で捉えてもらって、使っていただけると、なんかそういう色々なころが出来るようになるかなーという感じはしますよね 。
金木:今まで見えてこなかったものが、データによって見えてくるという世界が実現する時代になりました 。テクノロジーはもうある程度成熟しているので、本当に、活用の時代だなと。データとして上がってきたものを、うまく活用して、フィードバックループを回せるかどうかが、企業が生き残れるかどうかという部分に深く関わっているように思います 。