金木: さて、前編ではお互いの取り組みについてと、営業担当者の魅力度を上げていく という共通の世界観について触れてきましたが、ここからはより具体的な組織としての再現性確保 について伺っていきたいと思います。 今井さんから、コロナ禍で今までいかに“闇雲 ”な営業だったかを自覚し、これから変わっていこうとしている企業へ向けたアドバイスはありますか?
今井: そうですね…。私たちは普段勘やセンスに頼らずに「営業を科学する 」ということを謳っているのですが、すべてが科学できるのかというと、なかなか難しい。1社1社悩みが異なりますし、変数が大きいので、「売れる 」から紐解こうとすると上手くいきません。 ただ「この人から買いたくない 」については、科学 することができます。嫌がられない営業の型 を作れば、真似ができます。初めて接点を持つ段階や、ヒアリング段階など一つ一つのプロセス ごとに、お客様の「買いたくない」理由 を解明していければ避けられるのではないかと。そういう面での再現性の追求 はできるかな、と。ちなみにこの辺りを個々のマネージャーに任せてしまうと、個人の経験と知見 に基づいたものになってしまうので、一度明文化しておく必要があります。 こうした失敗の原因 を知っていくことが営業の型作り の第一歩なんですが、こういうことを話していると「営業の型なんて作ったら、創造性がなくなるんじゃないか? 」と聞かれたりもします。結論、全く逆 だと僕は考えています。
料理 を作るときって、大抵レシピ がありますよね。想いだけで美味しい料理が作れるかといったら、作れない。手順書が必要になります。そしてその手順書に則ってたくさん 作っていくと、作り方 や技術 が手になじんできます。そこまで来てから、食べる人の好みや体調などに合わせたベストな料理 を作ることが出来るようになります。 型 を知っているからこそ、最後にアレンジ をすることができる。そのアレンジの部分に、営業担当者の創造性 が発揮されるのだと考えています。 金木さんは、セールスエンゲージメントにおいてはどんなところで創造性の大切さを提唱されていますか?
金木: 僕らは「Go smarter, anywhere 」をビジョンに掲げ、フィールドセールスの方々がどこでも快適に働けるようなスタイルを提供しています。僕らのお客様は、新規顧客の開拓 もあれば既存顧客へのルート営業 もある。外回りもあれば内勤もあって、カフェ や車の中 でも仕事をしています。 そんな方々にどうすれば創造性 を発揮してもらえるか、その答えが僕らは“自動化 ”にあると思っています。創造性を阻むような作業 と呼ばれるもの、顧客接点における情報共有 や活動報告 などを全部自動化 してデジタライズ して、分析可能な定量データ に変換 する。 これは野球のスコア と一緒で、打率 や得意球種 が見えれば自ずと自分の戦い方 も見えてくる。まずはとにかく打席に立って、自分だけのスコアを溜めていく。データが溜まってくると傾向が見えてくるので、以前訪問で商談がフェーズアップしたお客様と似たような企業が近くにあったら位置情報 をもとにお知らせして、勝率の高いアプローチ先 をレコメンデーションしていく。 理想は、フィールドセールスが何も作業 に追われていないまま、次の再現性 を迎えていくことですね。
担い手不足の時代に 営業組織はどう対応すべきか?
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今井: 創造的な発想やアイデアを作るのに、営業パーソンとしてのゆとりや余白 って大切ですよね。分刻みの仕事をしていると、左から右へ、1社1社への提案に対する創造性 はどんどん失われていく。 金木さんが仰った通り、本当に人がやらなくても良いところを自動化してあげれば、豊かな発想 が生まれてくるようになると思いますね。 特に新規開拓営業 なんかは、基本的にはほとんどが失注 に向かっていると思っています。プッシュ型 の営業をかける際は特に、クリエイティブでクリティカルな新しい発想 を示せなければ、当たり前に「今まで必要としていなかったからいらない 」と言われてしまう。お客様の前提を覆す 必要があるんです。 お客様になかった発想 を与えていく、新しい世界 を見せていくためには、ゆとり、創造性が必要 。そこに時間をかけるためにも、余計なところでつまづかせない。そう言った意味ではセールスイネーブルメント もセールスエンゲージメント も、両方大事 だなと感じました。
金木: そうですね。色々お話ししてきましたが、セールスエンゲージメントとセールスイネーブルメント、やはり今、どちらも求められているソリューション なんだろうなと思います。
今井:どこもかしこも人がやってきた時代 は終わりつつあって、営業力のあった世代が辞めてみんなあたふたしだしているな、と感じます。問い合わせや反響はすごく増えていますね。 いずれにしても、目的 と手段 の関係で、どちらもあくまで手段として捉えていただくことが重要 ですよね。企業として「こうなりたい 」という目的を持って、そのためには誰がやっても成果が出せるような仕組みやシステムを導入しなきゃいけないよね、というように考えていただきたい。
金木:再現性のある営業組織 が出来ている会社があまりないのは、営業としてどう成果 を出すかという目標 や定義 、引いては会社のビジョン 、ミッションを再構築する というところから始めないと、作りにくいからでしょうね。 ストーリー から手をつけないと、結局は手段の選定まで適切ではなくなっていきます。人間の「個」 に対して理解を深めていって、共感 を得られないと、再現性というのはなかなか難しいなと感じます。 今回のキーワードだった、セールスイネーブルメントとセールスエンゲージメント、営業の再現性と創造性は、やはりどちらが先か後かという話ではなく、相互に意識しながら繋げていかなくてはいけない ものですね。
今井: 難しいな、とは思いますが、結局中心に添えるべきは “お客様 ”。お客様が「気持ちよく買う 」。だから、営業の再現性が必要。そして営業パーソンの創造性が上がれば提案の質も上がり、お客様の購買体験 が良くなる。 そのためには、顧客体験のどこにボトルネック があるのか。営業パーソンのエンゲージメント なのか、イネーブルメントという形で仕組み作り が優先なのか、顧客軸 で探っていくと、有効なメスになるのかな、と。テクノロジーを入れる、教育をする、はあくまで手段 になります。お客様の購買体験向上を軸とした目的を定めて、どこから着手していくのかを考えていくのが大事かなと思います。
金木: お客様と向き合って、詰めていかなくてはいけませんね。つまりは、営業組織の再現性を向上させるためにも、営業パーソンの創造性を高めていくためにも、まず最も必要なことは「お客様の解像度を上げる 」ということですね。 今井さん、本日は貴重なお話、ありがとうございました。